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アーチ状の橋を渡ったところで一人の男性が前方に立ちはだかった。後ろからは警官が追い駆けてくる。完全に挟まれてしまった。
「さあ!もう観念するんだ!」
息を切らした警官がじりじりと詰め寄ってくる。しかし、徐々に思考を取り戻したニコは、ある案が思い浮かんだ。が、もちろん失敗すればニコは刑務所行きになる。リリアーニャでは大人だろうと子供だろうと犯罪者には容赦のない刑罰が待っている。もちろん黙って捕まる訳にもいかないので、ニコは賭けに出た。
「い、いくぞおおぉぉ!」
掛け声と共に男性へと突進。少し緊張した面持ちの彼はニコの行動に驚いたのか、僅かの隙が生じた。ニコはそこを見逃さなかった。男性まで一気に詰め寄り、激突する直前でスライディング。男性の股の間を滑り抜けて南の門へと再び全力疾走を開始した。ニコが行動したのを見計らって追跡を始めた警官はニコの奇をてらった作戦に見事にはまり、前方で呆然としている男性と真正面からぶつかった。賭けは絶妙に成功し、二人を振り切った。
しかしニコは走ることを止めなかった。一瞬でも立ち止まってしまえば、調子に乗った自分に対する嫌悪感に押し潰されてしまいそうな気がしてならなかったからだ。だからニコは無心で、夢中になって走り続けた。
町を出て舗装されていない道に変わったことに、その道が魔女の森に続いていることに気付かずに――。
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