闇淵

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さて先ほど崖から闇へと落ちていった少女はどうなったであろうか。 薄い雲が流れて行き月が輝きを増した。蒼白の光が、崖下を照らすと壁の至るところに木の根が剥き出しになっていた。 ・・・そこに少女の姿はあった。 先ほどの二人には暗くて見えなかっただけだった。 複雑に絡み合った樹木の根が網となり、仰向けに倒れる形で奇跡的にも一番下に落ちることを免れたのだ。 しかし衰弱している少女は楽に死ぬことすら許されなかったのだ。これではただの生き地獄だ。 それでも少女は薄く眼を開いてたどたどしい動きで根を撫で感謝の意を示した。 ・・・他者からは何とも見ていられぬ光景であった。 少女は根の助けを無駄にしないよう痛む身体に鞭を打ち上体を起こすことにした。 支える為に根についた手は切り傷と擦り傷と割れた爪でまるっきり力が入らない、何とも頼りない支えだったがそれでも何とか起こすことができた。 しかし次に少女を襲い掛かったのは睡眠不足から来る極度の疲労と眠気と空腹、そして脱水症状だった。 少女は根に背を預け月を見ていた、ボヤける視界でも月の光は神々しく映っている。 そしてまた涙を流す少女、身体が痛むからではなく寂しさに胸が押し潰されそうだったからだ。 何故こうなってしまった?今日に至るまでの経緯が脳裏をよぎった。 自分がまだ三歳の頃に両親に捨てられ、見知らぬ集団に拾われた。そして連れて行かれたのは奴隷市場だった。 そこで自分は三年間様々な家を転々と回されていきその度に酷い仕打ちを受けてきた。 そしてさっきまで他の奴隷達と一緒に馬車で新たな土地まで運ばれる途中、車輪が溝に嵌まり一旦停止することにした。 ──男二人が調べている間に少女は逃げ出すことを決意した。 幸いにも拘束具は子供用のサイズが無かった、仕方なく少女の拘束具は絹糸を何重にも巻かれていただけの作りだった。 それを一本一本噛み千切りこっそり抜け出そうとしたが、他の奴隷達が騒ぎ出したのだ。 逃げるな!と口々に叫ぶ奴隷達、騒ぎを聞き駆けつけた男に追われたのだった。 回想しているといつの間にか身体が動かなくなっていた、まるで白昼夢を見ていた気分。思考が回らなくなってきた。 もう数秒目を閉じれば直ぐにでも永遠の眠りに落ちてしまう、だけどもう瞼は閉じてしまった。 ──少女はとうとう寝息を発ててしまった
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