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「血の臭い・・・こっちか」
夜、不気味な林の中を飛んでいた大きなコウモリのような羽を持ち合わせた、漆黒の球体の魔物が森の巡回をしていた時に、僅かな血の臭いを感じた。
臭いを辿って着いたところは崖だった。確かここはあまり深くは無い筈だがと辺りを調べて見ると不自然な形で伸びている木の根を見つけた。
それを伝って見てみれば、血まみれの少女が蹲っていた。
やややや!とばかりに大きな目を更に見開いて少女の前に舞い降りた。
「娘よ、人の娘よ」
声をかけても返事はしない、既に分かりきっていたことだ。
もうじきこの娘は死ぬ、しかし妙だった。まるで木々達が助けろと言うかのようにざわめき出した。
「娘よ、人の娘よ。そのまま死ぬか、変わり果てた亡骸になるのか」
無言、何も言えないことを既に知っていた。魔物は頬まで裂けた口を目一杯開き少女を丸呑みにした。決して食ったのでは無い自分の体内に仕舞ったのだ。
「よい味では、無いな」
当たり前だった。相当傷んだ肉の味と同じで泥でも食った気分だ。
――魔物は羽を大きく羽ばたかせ月夜の空へ飛んでいった。
魔物が降りたところはこじんまりとした小屋だった。
表札には「診療所」と書かれていた。
魔物は球体の身体から腕を伸ばし戸を叩いた、すると何とも眠たげな魔物が出てきた。
その姿は猫に似ているが背丈は人並みにあった。
「こんな夜更けに何の用だい」
大層不機嫌な態度を見せつけるかのように眉間に皺を寄せている。
「すまないが・・・」
魔物は口に手を入れて少女を取り出した。
唾液が固まり傷口を塞いではいるが衰弱しきっていることは火を見るより明らかだった。
小屋の主の顔に危機感と緊張が現れた。
「手当てしてもらえぬか?」
「人間の娘か・・・俺は同族専門だが」
「出来ぬ、のか」
「気休めにしかならないな・・・いや、まてよ?あの聖水なら治せるかも知れないぞ」
名案だ、とでも言っている気がしたがそれを聞いた魔物は絶句した。
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