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翌朝、まだ日が昇り始める前に夜爪は帰ってきた。夜爪は院長との約束を考慮し窓から中に入った。
室内は消えかけたランプ一つの灯りだけだった。
夜爪の脇には少女に与える為に採ってきた山菜や木の実の入った籠が抱えられていた。
何とも心優しい魔物、と人々は思うだろうが夜爪にとっては皮肉にしかならない。
己が今まで人間を何人殺したことか・・・と夜爪は自嘲の笑みを浮かべた。
さて、今は少女の容態が気がかりだ。
巡回中、夜爪は気が気でなかった。籠を机に置き病室に入っていった。
部屋に入ってから先ず最初に少女が眠るベッドを覗くと・・・
「・・・すぅ・・・すぅ」
「ほっ・・・」
少女は、初めの頃よりも幾分安らかな寝息を発てていた。
安堵の息を漏らした夜爪は今度はジッと少女を見つめた。
顔色は優れないが生気が戻っている。目が覚めるのも近いであろう。
しかし、目が覚めれば果たしてこの状況をどう思うか?
自分達が魔物であり、人間達には忌み嫌われている。
尤も忌み嫌われているのは闇天の主だが、それでも人間にとって自分達は異形の怪物に違いは無いだろう。
そうこう考えている内に、少女がゆっくりと目を開いた。瞼が半開きのまま、瑠璃色の瞳が夜爪の目と合った。
──ピシッと音がした気がした。
あれやこれやと考えていた夜爪は固まってしまった。
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