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「・・・気がついたか?」
気まずい空気が漂い出したが、冷静を装って声をかけた。
少女の半開きだった目が少しずつ開かれていき、呆然としたものに変貌する。
「人の娘よ、空腹であろう。今しがた果実と木の実を採ってきたのだ。あぁ、水が先か」
いそいそと籠を漁り樹から作った水筒と葉で出来たコップを取り出して水を注いだ。
「気がついたのか?」
後ろから声がした。振り返るとベッドから眠たげな院長がのろのろと起きてきた。
「ふむ、予想よりも回復が早かったようだ。起こせるか?」
院長が訊くと少女は頷いてからゆっくりと上体を起こして夜爪から水筒を受け取った。
「慌てずゆっくり飲め。胃が驚いてしまう」
院長の言葉を素直に聞いてゆっくりと飲み干した。
「それとこれを食すと良い。水分を多く含んだ果実だ、栄養もある」
夜爪が手渡したのは林檎だった。しかし今まで林檎の味も知らない少女は繁々とそれを見つめた。
「おい、そのまま渡しても食べづらいだろ。貸してみな」
少女から林檎を受けとると、引き出しから小太刀を取り出した。
器用に皮を剥いて一口サイズに分割し、その中の一つを少女に差し出した。
口の中で噛むとシャリシャリとした食感と瑞々しさと林檎特有の酸味が口内に広がった。
少女は驚いて思わず含んだまま口を開きそうになったのを寸前で抑え、飲み込んでから輝かしい笑顔で口を開いた。
「おいしーい!!これすごーく美味しいよ!!」
「それは良かった」
人間の口に合うかどうか心配だった夜爪は安堵した。少女はどんどんと食べるスピードを早めた、が。
「・・・うっ」
「どうしたのだ?」
急にお腹を抑えて前屈みになった少女を訝って夜爪が尋ねると
「お腹が・・・痛い」
「なにぃ!?」
やはり人間にとっての毒でも入っていたのか、慌てだした夜爪は球体の身体でふよふよと旋回しだした。
「落ち着け。娘、ひょっとして今まで腹を満たしたことが無いのか?」
「・・・うん」
「ふむ、なら少し痛いが身体を曲げずに寝転がるといい。少ししたら楽になる」
「うん、そうするー」
素直に言うことを聞き横になる少女。少し元気になってきたようだ。
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