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親友の姿が小さくなって角を曲がって完全に見えなくなってから、悠輔は小さく苦笑した。
「……那音行っちゃったよ。あんなに急がなくても追いかけないっての。」
言葉は若干冷たいが、その声音はとても温かいものだった。
先ほどのことを思い出して目元を弛める。
読心術を使えるのは本当だ。爺さんに面白半分に教え込まれた。
おかげで知りたくもない他人の感情を知ってしまって、大分角張っていた時期がある。
――那音と出逢ったのはそんな時だ。
彼はその見かけとは裏腹にとても良いヤツだった。
素直で真っ直ぐで、曲がったことが大嫌い。
……何より、人の痛みが分かる男だ。
彼の正義はいっそ小気味良い。陰口を嫌い戦うときは堂々と戦う。困っている人がいたら何振り構わず手を差しのべる。
出来そうで、案外出来ない事だ。日本人は堂々と戦うことを苦手とするから。
…そう、彼は今まで会ってきた奴らとは明らかに違っていた。
「こんな人間がいるんだと感心したよ。」
あれから読心術の制御も出来るようになって、使いたい時に使えるようになった。
心が休まる仲間が出来たということはとても支えになった。
……本人の前では言わないけど。
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