+日常と告白+

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追いついたら、すぐ頭上に巣があった。相変わらずピチピチと甲高い鳴き声が聞こえている。 けれど悲しかったのは、その子には母の姿が見えていないということ。気配を感じているのか鳴きまくっているが、その視線の先に母はいない。 すぐ傍にいるのに……見えていない。 ふと足元を見ると、蟻にたかられている彼女の亡骸があった。 「…ここまで、来ていたのに。」 その目は我が子を映すことなく濁ってしまったのだ。 「……安心して。私がその子を育てるわ。だから、安心しておやすみ。」 子が自分に気づかずに泣き叫んでいるのを傍らで聞いていた彼女は、その言葉に顔を上げた。 泣いているような、気がした。哀しみをその小さな瞳にたたえているような。 けれど小さくピチっと一回鳴くと、瞬き一つ分の時間にフワリと消えていった。 「……おやすみ。」 彼女は切なそうに、そのすがめた瞳に苦しさと淋しさをひとつまみだけ滲ませて、静かに目を閉じた。 君の冥福を、祈るよ。 小さな母親。  
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