それは始まりのヒトカケラ

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ある夜の事。 レィディアンにあるズェイエンという国にある小さな村、ホルスは襲撃を受けた。 隣国のアディンによるものだった。 小さくとも明るく、実り豊かだった村の面影は一瞬で消え去り、家屋は崩れ燃え上がる。 村人は、アディン兵士に殺戮され、無惨な姿で永久の眠りにつく。 収穫まじかだった畑は踏みにじられ、村の木々も燃えていた。 「村人は一人残さず始末しろ!」 隊長格の男が叫ぶ。 その男の言葉通りに、微かに残っていた生存者は次々と殺されていく。 ……年寄りも子供も、男も女も関係なく死んでいく。 そんな中、一人の裸足の少年が森の中を駆けていた。 「……はぁはぁ……はあ……げほっがほっ」 少年は息が切れたのか、スピードを緩め、木にもたれかかった。 涙が滲んだ瞳は少年の後方にある村を見つめる。 喉を押さえていた手とは逆の手を強く握りしめる。 ……少年は無力だった。 家族も仲の良かった友も、優しくしてくれた人達も……今はいない。 一人だけ生き延びて……どうするというのだ。 だが、だからこそ生きながらえなければならないと少年は思う。 「……父さん、母さん。いつか、いつかきっと、またこの村に帰ってくるから……俺は生きるよ」 「そいつは無理だと思うぜ。坊主」 少年の背後の木の影から一人の男が現れた。 男の手には赤黒いモノがこべり付いた鋼の剣があった。 少年の故郷を襲った兵士の一人だとすぐにわかる姿をしていた。 「……あっ」 「悪いね、これも命令なんでな」 男のしぐさも口調も、ちっとも悪いとは思っていないものだった。 少年は金縛りにあったかのように動けない。 男はゆっくりと剣を上へ振り上げ、一気に少年目掛けて振り下ろす。 少年の小さな身体に鋼の剣がめり込む。 衝撃で少年の身体は吹き飛び、木に激突する。 ……そして、少年はぴくりとも動かなかった。
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