第1話:茜色 Start Day

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「だからあれほど早く食べろって急かしたんだ!」 「ご、ごめんなさい兄さん」 兄の腰に腕を回し、風を切る自転車から落ちまいと美唯は力を込める。 勿論、その細腕からは強い力が生み出されるはずもなく、全く苦にならずにペダルをこぐことが出来る。 「この地形に感謝だな‥‥」 ポツリと呟く青年。 その言葉を聞いていた美唯は、当然その発言の真意を知ろうと、質問をする。 「何故、地形に感謝する必要があるんですか?」 よくぞ訊いた、と言わんばかりの笑みを浮かべ、かつペダルをこぎ続ける。 「よ~く想像してみろ。もしもここが長崎だったら?」 「あの‥‥兄さん、ここは九州じゃありませんよ?」 「だから想像してみろって‥‥あの長崎を」 信号が赤に変わり、自転車を止める。 自転車の後ろに乗る美唯は、考えるため瞳を閉じている。 「あの、坂だらけの県だったら自転車なんかに乗るより、歩いた方が楽だろ?」 気付かされたように、美唯は目を素早く開いた。 「それは‥‥そうですね」 信号が青に変わると、急いでいるためペダルを強くこぎ出す。 「それに比べ、ここは関東平野のド真ん中。だから、地形が平地ってことに感謝するわけ。分かったか?我が妹よ」 「はい」 顔は見えずとも、妹の笑顔が、その嬉しそうな声音で分かる。 「よし、飛ばすぞ美唯。しっかり捕まってろよ?」 「はい、兄さん」
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