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「だからあれほど早く食べろって急かしたんだ!」
「ご、ごめんなさい兄さん」
兄の腰に腕を回し、風を切る自転車から落ちまいと美唯は力を込める。
勿論、その細腕からは強い力が生み出されるはずもなく、全く苦にならずにペダルをこぐことが出来る。
「この地形に感謝だな‥‥」
ポツリと呟く青年。
その言葉を聞いていた美唯は、当然その発言の真意を知ろうと、質問をする。
「何故、地形に感謝する必要があるんですか?」
よくぞ訊いた、と言わんばかりの笑みを浮かべ、かつペダルをこぎ続ける。
「よ~く想像してみろ。もしもここが長崎だったら?」
「あの‥‥兄さん、ここは九州じゃありませんよ?」
「だから想像してみろって‥‥あの長崎を」
信号が赤に変わり、自転車を止める。
自転車の後ろに乗る美唯は、考えるため瞳を閉じている。
「あの、坂だらけの県だったら自転車なんかに乗るより、歩いた方が楽だろ?」
気付かされたように、美唯は目を素早く開いた。
「それは‥‥そうですね」
信号が青に変わると、急いでいるためペダルを強くこぎ出す。
「それに比べ、ここは関東平野のド真ん中。だから、地形が平地ってことに感謝するわけ。分かったか?我が妹よ」
「はい」
顔は見えずとも、妹の笑顔が、その嬉しそうな声音で分かる。
「よし、飛ばすぞ美唯。しっかり捕まってろよ?」
「はい、兄さん」
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