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あれほどの可愛らしさながら、テレビのアナウンサーとは大違いで、そのスマイルは営業用ではなく、確かに公平な優しさから生まれた笑顔であった。
その笑顔に、青年は朝から癒されて頬を緩ませていると、鋭い笛の音が後ろから響く。
ピィィィィィィ!!
「げ‥‥この笛の音は‥‥」
青年の顔から、一瞬で歓喜の笑みが消え、自転車を押す手に力を込める。
隣の美唯は、その凄まじい速さで変わる兄の表情を不思議がっていたが、笛の音を発した張本人を見つけると、思わず兄のブレザーの袖を掴んでしまう。
目の前から、土煙を上げて走ってくる金髪の女子生徒。
その緩く巻いたカールが、走る時に生じる風によって顔の側面に流されてしまう。
女子生徒のブレザーの左肩には、"風紀委員"と書かれた腕章がつけられていた。
「あれは、風紀委員長!」
男子生徒の誰かが、待ちかねていたように叫んだ。
金髪の女子生徒は、自転車を押す青年の前に止まる。
「あなた!もう!今朝で何度目ですの‥‥」
「あーもう!うっせぇな、朝っぱらからお前の怒鳴り声聞きたくないってのに‥‥」
面倒臭そうに、顔をひどくしかめて怒りを見せる。
「怒鳴らせているのはあなたでしょう!どうして制服を着こなすことが出来ないんですか!」
そう言うと、青年の胸を鋭く指差す。
ブレザーもカッターシャツも、ボタンを1つも留めておらず、シャツにプリントされたロックバンドのロゴが丸見えだった。
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