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プロローグ
「暑いなあ…。」
無意識にそう呟いてしまう程、
今年の夏はあつかった。
暑さを煽るように、外ではジリジリと油ゼミがないている。
蝉にもいろいろあるけれど、
最近は夕方になると“ひぐらし”の啼き声も混ざるようになってきた。
俺はひぐらしの声は嫌いだ。
カナカナと啼く声は物悲しく…
何かを終わらせに来たようにきこえる…
大好きな、何かを…。
秋も近づいてきているというのに…、
この狭い空間には、ただしゃがんでいるだけで顔から汗の滴が落ちるような熱気がこもっている。
汗そして汗…。
背中を冷たい汗が流れる感触が伝わってくる。
ここのところ連日の暑さで
どうも体調が弱っているのかもしれない。
「いゃあ、さっきはどうなるかと思った。間に合ってよかった。」
出すものを出すと、先程の腹の痛みが嘘のようにすっきりしていた。
俺がトイレのドアを開けた瞬間、さっきまで煩いくらいに啼いていた油蝉の鳴き声が、ピタリと止まった。
「あれっ?」
秋の気配が感じられる様になって来た8月末の景色の面影は微塵もなくなり、薄黄緑色の木々の葉は、まだまだ若くこれから成長する意欲に燃えていた。
「ここは何処だ?」
俺がついさっきまで見ていた筈の景色とはえらく変わっていた。
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