紅き月光を浴びて…

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パタン…という音をたてて、扉は閉まった。 一人になったリュヌは、窓を開けて ベランダに向かう。 夜風は程よい湿り気と冷たさを含んでおり、気持ち良かった。 「…ふっ。今日は あの日に似ているな…」 ――― 俺が魔界に来た…あの日と…。 「今日は あの日に似てますね…」 不意に背後から声をかけられ、リュヌは思わず回し蹴りをする。 だが、背後に居た人物は体を後ろに倒して それを避けた。 「あら やだ。久しぶりに遊んで欲しいのですか? リュヌ」 「…母さん」 リュヌが呟くと、背後に居た人物…メールはクスッと笑った。 「私が貴方を魔界に連れて来た時も、今日みたいな静かな日でしたわね…。 なんだか懐かしいわ」 上品に笑うメールに、リュヌは頷く。 「そうだな…。母さんには感謝してるよ、本当に。 …無理矢理 押し付けられた俺なんかを愛してくれてさ…」 最後の文では、リュヌは下を向いてしまい、眉間に皺を寄せる。 メールはリュヌの両肩に手をやり、自分の方を向かせた。 「リュヌ、貴方はもう私の息子。あんな人間など 忘れなさい。 貴方には 私やアジェ、そして、魔界の住人達が ついていますよ」 日だまりの様な温かい笑顔を浮かべるメールに、リュヌは笑いかけ、頷いた。 『なんだなんだ? 随分 しみったれた空気じゃねぇか、旦那ぁ』 「よぉ、ティグル。相変わらず お前は目立つな」 先程のしみったれた空気は何処へやら…。悪戯っぽい笑みを浮かべたリュヌが見つめる先には、背中に蝙蝠の様な翼を生やした 全長3㍍くらいの真っ白な虎が居た。 .
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