53087人が本棚に入れています
本棚に追加
/634ページ
「リュヌって名前なのね。
この子を愛してない割りには、なかなか可愛い名前をつけるじゃないの」
魔王は女性を見て嫌みっぽく言った。
「…まさか こんな化け物だとは思わなかったからね…。
それより、さっさと出ていってよ!!
その子、目障りだから!!」
魔王は顔をしかめると、魔物を引き連れて 家を出た。
「ったく、なんなのよ あの人間はっ!!
頭にくるわ!!」
『魔王様、お気を お鎮め下さい』
『リュヌ様の前でございますし…』
魔王は肩を怒らせて歩きだし、魔物は全員揃って大きな溜息を漏らした。
その時、何かが魔物の脚をポンポンと叩いたので、そちらに視線を向けると、魔王の隣に居た筈の男の子……昔の俺が心配そうな表情で立っていた。
「…大丈夫?」
『リュヌ様…!
大丈夫と申しますと…?』
魔物が丁寧な口調で尋ねると、昔の俺はか細い声で呟いた。
「溜息…ついてた」
『あぁ…。心配を おかけしてしまいましたか…。
我々は大丈夫ですよ』
魔物は鋭い牙を覗かせ、ニカッと笑ったが、『しまった!』と呟いた。
笑った顔を見て、昔の俺が怖がると思ったんだろう…。
だが、昔の俺は「なら、心配ない」と言って、魔物に はにかんだ笑いを向けた。
魔物は驚き、怖ず怖ずと尋ねる。
『リュヌ様、我々が…魔物が怖く無いのですか…?』
昔の俺は迷う事なく頷き、微笑する。
「だって、僕自身のほうが なによりも怖いもん…」
.
最初のコメントを投稿しよう!