約束 いち

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一度怒ったカオリはすぐにはおさまらない。なので少し後ろについて歩くことにした。 約2メートル50センチ。 これ以上近すぎてはカオリにうざがられる。遠すぎては後ろを付いて歩いていることに気付いてもらえない。この距離は今までのカオリとの歴戦から学んだ絶妙な距離なのだ。 公園の周りは、大通りになっていて、その通りを数十メートル歩くと右手に横断歩道がある。 学校に行くにはその横断歩道を渡ることになる。 小学生が二人、青信号を待っているのが見えた。 あそこの横断歩道で止まったら話しかけようか…とか考えていたら、横断歩道に着く前にカオリの歩みが止まった。俺も歩くのを止める。 しかし、カオリは何も喋らないで立ち尽くしたまま。表情がまったくわからない。十秒くらい沈黙が続いた。 『俺が折れるか…』 めんどくさくなってきた。早くこの場をおさめたい。 はぁ…と小さく、カオリの背中に息をはいた。 「カオ…」 「もう絶交ね!!!」 「え!」 アンド、猛ダッシュ。 「えぇ…!」 呆気にとられ呆然とカオリの後ろ姿を目で追っていたが、はっとする。 追いかけろ! ローファーなのにカオリの足はめっちゃ速かった。 県大会準優勝の瞬発力はハンパない。かたや、群大会3位入賞な俺との距離は開くばかり。(しかも俺は長距離専門!) 持久力には自信があるが、その持久力を発揮する前にカオリの姿を見失いそうだ。 カオリは横断歩道を渡り切ってもなお、走り続けている。走る速度を緩める気はないらしい。 運動から遠ざかりすぎた俺と、現役短距離選手であるカオリ。二人の差は広がるばかりだ。 なんか悲しくなってきた。 青信号が点滅し始めた。
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