《Prologue》―〈天上の子守唄〉

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一寸先も見えない暗闇の中にその身を漂わせていると、突然視界の真ん中にポツリと…小さな明かりが見えた。 明かりは徐々に大きくなっていき、それは視界を覆わんばかりの光の穴となって…私の体を飲み込んだ。 …その先にあった世界はまさに、現世に存在する事を許されない…天上の世界だった。 天空を照らす日光は金色の輝きを放ち、見る者の網膜を優しく包み込むように…その光景を私に向けて鮮明に写し出す。 そうして写し出された光景の大半を占めていたものは、天に向けてどこまでも伸び続ける…雲の螺旋。 まるで雲で出来た塔の中にいるような錯覚を覚えながら、私の体はゆっくりと塔の上へ上へ昇っていく…その浮遊感の、なんと心地いい事か? まるで私の体さえも雲と化し、太陽の熱によって徐々に蒸発していく…そんな現実逃避にも似ている事を考えてしまう。 …そもそもここは、どこなんだろう? そしてここは果たして…現実なのか? 私の思考などあまりに小さいと言わんばかりに、私の視界を徐々に…雲が埋め尽くしていく。 このまま雲に潰される、そんな事を考えていると…本当に視界が一面の雲で覆い尽くされてしまう。 ―でもそれはほんの一瞬で、その一瞬が過ぎ去った後には…淡い閃光が私の網膜を焼いた。 私が小さな悲鳴を上げながら顔を背けて閃光から逃げていると、瞬時に縮こまっていた私の手を…誰かが握った。 いきなりだったので私は怯えて体を震わせたが、その手の柔らかい温もりに…緊張は一瞬で溶けてしまった。
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