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拙いかな、そう彼が思った時、彼の頬を掠める様に何かが飛んでいく。
頬に一筋の傷。
流れ出る赤い液体。
だが、彼は目の前に存在する影のみに意識を集中し、生きる為だけに『言葉』を探す。
「―――ちと、いや、かなりやばい〈かも〉な。」
何気無く言う一言も意味が無い訳では無く、仮定する事により、彼は世界に暗示を掛ける。
それは足掻きでは無い。
彼自身、目の前に居る相手が、自分よりも世界を支配している事を知っている。
だからと言って、簡単に命を奪われる訳にはいかないし、命を諦める訳にはいかない。
何故ならば世界を支配する為の『効果範囲』が全てでは無い、『意志』の力が重要なのだ。
「なんだって、こんな目に遭わなきゃならんのかね。こちとら新婚だぜ。嫁さんを早々に未亡人にする訳にはいかんのよ、っと。」
そう言い、彼は前方に向かい走り出した。
『効果範囲』は向こうが圧倒的に上。
だが、互いの『領域』では『効果』は発揮されない。
逃げようにも、相手が逃がしてくれそうにも無いならば、自らでその機会を作り上げるしか無い。
そう、一番簡単な理由で、彼は接近戦を選んだ。
「うぉらぁぁ!」
それは勇気。
叫ぶ事で、彼は自らに力を生んだ。
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