0.約束の為に叫ぶ花

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そんな時、彼の背中が、体全体が危機を察知する。 気配を察した、と言う訳では無い、最早それは勘のレベルだが。 「〈飛ぶ〉。」 人体の限界を大きく超越し、後方へ大きく飛び退いた彼の視線の先に、また新たな影が現れた。 その直前まで居た場所には、まるで豆腐の様に切り刻まれたアスファルト、そしてもう一体の影。 「勘弁してくれよなぁ。連戦な上に次は二体同時かよ。」 呟くが、既に相手は行動に移っている。 どうやら待ってはくれないらしい。 「〈縦横無尽〉に〈駆ける〉。」 体に負担は掛かるが、命には換えられない。 彼の目に、諦めの色は全く滲んでいなかった。 ただただ約束の為に、彼は生き残る事だけを考えていた。 生きる為に、そして共に歩む為にした約束。 圧倒的不利に陥りながらも、彼は信じていた。 約束を。 二人で交わした約束を。 それはただの言葉では無く、世界を巻き込んだ『言霊』。 「残念だがな。この後、嫁さんと約束があるんだ。」 二体同時の波状攻撃を避けながら、彼は満面の笑みを浮かべた。 「だから、な。」 その目が見るのは向日葵。 それは思い出。 「こんな所で、〈死ぬ訳にはいかない〉んだよぉ。」 その叫びを聞いた人間は誰も居なかった。
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