3人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな時、彼の背中が、体全体が危機を察知する。
気配を察した、と言う訳では無い、最早それは勘のレベルだが。
「〈飛ぶ〉。」
人体の限界を大きく超越し、後方へ大きく飛び退いた彼の視線の先に、また新たな影が現れた。
その直前まで居た場所には、まるで豆腐の様に切り刻まれたアスファルト、そしてもう一体の影。
「勘弁してくれよなぁ。連戦な上に次は二体同時かよ。」
呟くが、既に相手は行動に移っている。
どうやら待ってはくれないらしい。
「〈縦横無尽〉に〈駆ける〉。」
体に負担は掛かるが、命には換えられない。
彼の目に、諦めの色は全く滲んでいなかった。
ただただ約束の為に、彼は生き残る事だけを考えていた。
生きる為に、そして共に歩む為にした約束。
圧倒的不利に陥りながらも、彼は信じていた。
約束を。
二人で交わした約束を。
それはただの言葉では無く、世界を巻き込んだ『言霊』。
「残念だがな。この後、嫁さんと約束があるんだ。」
二体同時の波状攻撃を避けながら、彼は満面の笑みを浮かべた。
「だから、な。」
その目が見るのは向日葵。
それは思い出。
「こんな所で、〈死ぬ訳にはいかない〉んだよぉ。」
その叫びを聞いた人間は誰も居なかった。
最初のコメントを投稿しよう!