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雨降るロマンス
オカンに無理矢理持たされた傘の価値が分かった、夕方からのどしゃ降り雨。
校舎の玄関で、隣りのクラスの彼女を待つ。
先に帰るカップルの奴らは、この鬱陶しい雨にはしゃいでいる。
彼女との話に夢中になりすぎて、靴は引き寄せられるように水たまりばかりを踏んでいく。
小さいものから大きなものまで。
靴の中がとうとう浸水した時は、もうどうでもいいと思って、もう水たまり如きに怯えなかった。
まだ季節は寒い。
靴の中からの冷気が、足をつたって登ってくるのが分かる。
ふいに伸びて来た彼女の手が、俺の左手を握った。
温かい温度。
俺の傘と彼女の傘の間から雨は漏れて、その滴は、握りしめた手にも降ってきた。
俺はぎゅっと彼女の手を握って、雨の冷たさ如きに、この手を離してたまるもんかと、そう心に決めたのだ。
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