村上妙子はデキル女

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 六畳の洋間に、リズミカルなキーボードを打つ音が響く。  村上妙子(たえこ)は、質素なパイプ椅子に浅く腰を下ろし、パソコン机に置かれたディスプレイを見つめてていた。  使い古したグレーのスウェット、後ろで無造作に束ねた髪の毛、後は寝るだけの態勢は整えてある。 カタカタカタカタ……カチ……カチ…… カタ……  時間は深夜の一時を回った頃。  明日も仕事、早く寝なければいけない。  妙子はパイプ椅子の背もたれに、強く背中をあずけた。 「ギシ……」と、椅子の軋む音。  微かに伸びる背筋が心地よい。  傍らから煙草を取り出し、ディスプレイに目を向けたまま火を付ける。  煙を一息深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。  その煙草を鉄製の灰皿に置こうとした時に気が付いた。  灰皿には既に、先程火をつけた煙草が、その身を半分ほど灰に変えて、置かれていたのである。 (あ……、またやっちゃった……)  妙子は深く気にすることも無く、新しく火をつけた煙草を口にくわえ、古い煙草を几帳面に揉み消した。
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