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質素なその部屋には、パソコンとその机、小さな三段の収納ケース、スチールの水平ハンガー、そして布団があるだけ。
妙子は間もなく、三十才を迎える。
年相応の生活感が、その部屋には無い。
それもそのはず、この部屋は妙子の正規の部屋ではない。
そこは、会社からわずか徒歩十分しか離れていない理想の部屋。
しかし、家主は妙子ではなかった。
神谷一郎。
妙子より三つ年下の男。
中途採用で入社したその年、彼は新卒で同じ会社に入社した。
かつての同期、かつての同僚、そして、現在は妙子の部下に当たる男。
そして、この2DKのアパートのオーナー。
妙子は今日、たまたま仕事が押してしまい、家に帰る手段を失った。
その為、一郎の家へ転がり込んだのである。
もっとも、妙子は月の大半をこの部屋で寝泊りしているのだが……
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