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「机に座る時間が長いと体が固まるな」
自室のソファに腰掛け、フレデリカはぼやいた。
小1時間の教師との勉強で凝り固まった体を解すために伸びをする。
「フレデリカ様、こうもいつも遅れていらしては先生方が困ってしまいます」
「次は遅れぬ」
メイドのサラザールの言葉に、くるくると自分の灰銀の髪をいじりながら、適当な調子で呟いた。
「いつもそう仰るじゃありませんか。そんなに勉強がお嫌ですか?」
ああ、と嘆いて額に手を当てる仕草がわざとらしくて、フレデリカはくすりと笑った。
「嫌ではないが、しかしサラザール、私はもう護身術の指導は要らぬのだ」
そう言って弄んでいた自分の髪を一本引き抜く。
それを左の手のひらに載せ、右の人差し指でそっと撫でた。
すると、ぼうっ、と髪の毛が白く光った。
フレデリカはそれを指で、ぴっ、とサラザールの方に弾く。
指の先へ青白く光る小さな小鳥が、一直線に飛んでいく。
―――ぴちちちちっ、
サラザールの周りを小鳥が光をまき散らしながら飛びまわった。
「またお戯れになって!」
溜息をついたサラザールは、煩わしそうに手で払うような仕草を見せた。
あからさまに嫌がるそのあけすけな態度にフレデリカはくすくすと笑う。
「精霊燐を無駄遣いなさらないでくださいまし。空気が濁ります」
「小鳥は愛でるのにちょうどいい」
光の鳥はフレデリカの元に舞い戻り、手に止まる。
そうして一際大きく鳴いたかと思うと、燃え尽きるような音を出して空気に消えていった。
後には魔燐の燃えカスによる少し燻った匂いが残っている。
「まったく、フレデリカ様は」
サラザールがぶつぶつと文句を言いながら換気のために窓を開けた。
開け放たれた窓には、広がる草原に馬の放牧の群れが見えた。
フレデリカはそれに目を奪われる。
「そんなことでは立派な姫君にはなれませんわ。姫君になる為の嗜みがお嫌であれば、ではなにをなさりたいのです?」
「そうだな――」
窓の先を見つめながら呟く。
フレデリカの声のトーンが少しだけ下がっていた。
その瞳に先ほどとは違う光が微かに宿ったことにサラザールは気付かない。
「……」
「姫様?」
しかしそれきり喋らず、不思議に思って見つめる。
フレデリカは微笑を浮かべた。
「なんでもない。散歩に行く」
「またでございますか!?」
呆れ顔のサラザールの脇をすり抜け、フレデリカは颯爽と部屋を出た。
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