Colvaressia

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天井の窓から光が差し込み、息づく馬達を照らしている。   生きた動物の匂いと、木造の建物の匂い、飼い葉の青々しい匂いが無い混ぜになった、湿った薄暗い馬屋だった。   広い家屋の中に仕切りに収まって、馬達が佇んでいる。 物音は少なく、蹄で地面を踏みしめる音と、時折微かな鼻息が聞こえていた。   通路の奥では一人の男が貯めてある飼い葉を移し替える作業をしていた。   ざく、と飼い葉に鋤を入れ、塊を持ち上げ、長方形の木桶に放り込む。一定のリズムでそれを続けている。   そこに、ぎいい、と馬屋の扉が開く音がして、大きく外の光が差し込んだ。   騎士の格好をした青年が一人、辺りを見渡しながら入ってきた。   生き物の強い匂いが慣れないのか嫌そうに鼻を押さえる。 「……?」 男は鋤の手を止めて振り返った。 「フレデリカ様、やはりお止めになった方が」 騎士は振り向いて後ろの誰かに話しかける。 「何がだ。手をどけよ、ミシュア」 騎士の肩に小さな手が触れ、肩を押しのけ、 「おや、人がいるではないか」 ひょこ、と騎士の身体の横から顔を出した少女は、男を見てそう言った。 「お主」 「は……。なんでございましょうか?」 男は鋤を片手に答えた。汚れた作業服に、汗にまみれた顔。長い黒髪を柄布で覆っている。 「貴様、無礼だぞ」 騎士が少女の前に立って睨んできた。 少女はそれを煩わしそうに再び遮る。 「構うなミシュア。作法は無用だ。お主、ここの馬丁だな?」 「はい、そうでございますが……」   「私はフレデリカ・ド・ランザドルウ。ランザドルウ王の第4皇女だ」 戸惑いがちの男に、少女はそう名乗り、にっ、と微笑んだ。
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