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「姫様、今後あの者には話しかけくださいませんように」
「何故だ」
馬術指南の約束を取り付けた後、馬小屋から去った2人は城の広い廊下をかつかつと早足で行きながら話をしていた。
「あの者の身分は非触民(アンタッチカ)です。本来ならば王族の膝より上に頭を上げることを許されぬ卑族です」
「なるほどな。だから貴章にも気付かなかったのか、あの男」
フレデリカは笑いながら、左胸のフリルに縫い付けられた紋章付きのリボンをつまはじく。
「これを見れば王族というのは分かろうものだがな。わざわざ名を名乗ったのは久しぶりであったわ」
宮廷内では、リボンを身につけている者は王族の証であり、それを目印に下級の身分の者は礼儀を通さなければならない。
「申し訳ございません」
「何をお主が謝る」
「私の手配不足で――」
「私を馬鹿にしているのか?そのようなことで怒る意味があるか。あの者は知らなかっただけだ。全く……お前の繊細すぎる気回しには付き合えぬわ」
やれやれ、といった風にフレデリカは肩をすくめた。
「……は」
観念したのか、ミシュアは黙って平伏した。
「しかし、卑族か――都合がいいな」
「……?」
フレデリカの言葉が理解出来ず、ちらりと見る。
「ああ、いや何でもない」
彼女はふいっ、と考え込む姿勢をやめ、歩みを早めた。
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