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この日、いつもは閑静な田舎の町は大騒ぎだった。 大騒ぎといっても楽しい騒ぎではない。 この町のある某県近辺、いやビジネス界においては知らぬもののないN銀行の頭取で古くからの大事主、絹山家で、とある告別式が行われていた。 亡くなったのは長男の春。 22歳の若さだった。 なぜ、この悲しいしめやかな儀式が大騒ぎかというと… それは春が、人気インディーズヴィジュアル系バンド、ビーグのボーカルだったからである。 春は、レコーディングの帰り一人暮らしのアパートに向かう途中、交通事故にあってしまい、即死だった。 300人はいるだろうファンが記帳に訪れたが、号泣したり失神したりする騒ぎで、式には関係者以外立ち入り禁止となった。 ビーグは春、ギターの亮、ベースの志磨、ドラムの孝平の四人編成で、もちろんメンバーも悲しみと信じられなさで苦痛の表情を浮かべ列席していた。 (もうすぐメジャーだってときだったのに…無念だろうな春…) ベースの志磨は、慣れないスーツの膝に指を食い込ませた。 こうしてしめやかに儀式は行われ、 親族やメンバー、友人は会席を済ませ、若くして散った命を心から悲しんだ。
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