一章

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「あっ、やべっ」 と呟いて握っていた木刀を見た。 その場の流れで木刀を持って来てしまったようだ。 藤堂は一つ溜め息を吐くと反転してもと居た所を目指した。 道場に着き、恐る恐る中を覗く。 まだ原田が槍の稽古をしているのが見えた。 中に入るのに気が乗らず、道場の前に植えてある大きな桜の木の下に腰掛けた。 「馬鹿だなぁ」 藤堂は膝を抱きかかえ、顔をうずめた。 ――好きになったって 報われないんだ… 藤堂は女好きだ。 だが、一人だけを好きになった事は無い。 あの時以来… 「あー、やだやだ。何で今思い出すかなぁ」 「どうされました?」 頭から優しい声が聞こえた。
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