一章

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      辺りは薄暗くなり、雨がぽつりぽつりと当たり始めた。 雨と土の匂いがかすかにする。 ――嫌な匂い…… 昔の小さな自分が思い浮ぶ。 あの時も雨と土が混ざり合った匂いがしていた。 震える自分は何もできない。 嫌な予感がした。 昔を思い出すなんて、良くない事が起こる前触れに違いない。 薬草の調達や買い出しやらを終え、帰路についていたみつ。 雲行きが怪しいのに気が付き、足早に屯所を目指した。 門前が見えると、駆け足で軒下に滑り込む。 途端、雨が激しく降り出した。 「間に合って良かった」 胸を撫で下ろしたみつだが、ふと前を見ると、そこにはずぶ濡れになった藤堂の姿があった。 「藤堂さん?」 みつの呼び声に反応がなく、ふらふらと近付いてくる。 明らかに様子がおかしい。
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