一章

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      ふらり、ふらり。 視線を下へやり、顔には生気が見当たらない。 きっと、また何かあったのだ。 藤堂の心を揺らがせる何かが。 藤堂は本当は弱い。 へらへらして隠しているだけで、本当は弱い。 「藤堂さん?濡れてしまいますよ」 その問い掛けにも俯いたまま、藤堂はみつの前まで来ると立ち止まった。 「何があったんですか?こんな酷い姿。原田さんと喧嘩でも…」 みつがそう言って藤堂の肩に手を伸ばそうとするが、それは一瞬にして大きな手に捕まえられる。 そしてそのまま体ごと引き寄せられた。 手に持っていた買い物の品が落ちる音が雨に紛れて響く。 「…………じゃない」 今にも消えていきそうな小さな声。 「そんなんじゃない」
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