一章

16/31
前へ
/463ページ
次へ
      「後、よろしく」 先に沈黙を破ったのは藤堂だった。 一言放つと、みつを山崎に押し付け立ち去ろうとする。 山崎は慌てて言葉を絞り出した。 「まっ待ってください!これはどう言う事ですか!?」 珍しく声を張り上げているのが自分でも分かる。 何故だろう。 みつが気を失っていたから? 藤堂がびしょ濡れだから? それとも… ―藤堂がみつを抱き抱えていたから? 「壊す事しかできないんだ」 いつもと違う声に違和感を感じた。 そして意味深な言葉。 こんな藤堂は見た事がない。 「あのさ、最後にお願いしてもいい?」 背を向けたまま続ける。 「…みっちゃんにごめん、って謝っといて。俺もう、会えないから」 そう言って去る藤堂に、声を掛けることは出来なかった。
/463ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4987人が本棚に入れています
本棚に追加