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中塚たちの姿が見えなくなってから、ひとり、ふたりとその場から離れ始め、学とショーケン、愛美だけになった。
「行こか」
ショーケンが、学を促し、3人は、駅へ向かい始めた。
愛美は、早く学とふたりだけになって、賭けのことを話したいと試合が終わってからずっと考えていたが、さすがにそれどころではなかった。
そして、学に何と云って、どう接すれば良いのか、戸惑っていた。
それは、ショーケンも同じだった。
どちらかと言えば、ショーケンは、学と同じ思いだった。
ショーケンにしても、今日ほどの大敗は初めてだったし、試合の後半、自分以外の全員が試合を投げ出したことが、許せなかった。
それは、学を含めてのことである。
電車に乗っても、誰も口を開かないままだった。
そのまま、家の最寄り駅に到着。
改札を出たところで、この重たい空気を作り出したのが、自分であることを自覚している学が、申し訳なさそうに口を開いた。
「ゴメンな。
何か、俺、先走ってもうて」
その謝罪の言葉でショーケンは、学を許せると思った。
いや、その前、学が真剣に試合の反省会をしたいと、本気で云っているのが、わかった時点で、ほぼ許していたのかもしれない。
が、今の言葉で、学との間にほんの少しもわだかまりを感じなくなったと思った。
「今日は、まあしゃあないで。
俺らの代になったら、俺らで変えてこーや!」
ショーケンの本音だった。
「中塚さんは、結構俺らと近い考えやと思うんやけど、他の先輩らは、ほとんど武田さんと同じ考えやと思う。
出来たら今の内に1年だけでもまとまってホンマの【反省会】したいんやけどな」
「ホンマやな。
明日の練習のあとにでも残って、やらへんか切り出してみよっか」
「はい、は~い!!
それ、ウチがやっとく!!
全員の連絡先知ってるし」
愛美が、やっと自分の役割を見つけられたと、大きく手を上げ、2、3回横にスキップして、ふたりの前にまわり、はしゃいで云った。
「おう!頼むわ!
ホンならまた明日な!」
そう云って、ショーケンはふたりと別れた。
ふたりきりになった学と愛美の間にさっきとは違った、微妙な空気が流れる。
学が、照れ隠しに頭をボリボリ掻きながら云った。
「帰ろっか」
愛美は黙って頷き、歩き始めた。
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