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学も愛美も歩きながら同じことを考えていた。
しかし、先ほどの話に比べ、あまりに能天気な話題だけに、切り出すタイミングが掴めず、ショーケンと別れてから、ずっと無言だった。
その無言の空気に耐えきれず、口を開くと、ふたりの声が重なった。
「「あの……」」
ふたりは、顔を見合わせて笑った。
「そっちから、どうぞ」
学が云うと、
「学くんから先どうぞ」
と、ふたりで譲り合い、また笑った。
「今日、俺が最初に交代で出た時、応援ありがとな。
あれで、楽になったわ」
「ホンマ!?
良かったぁ!!」
「ホンマ、ホンマ。
アレなかったら、最初の3ポイントも決まってなかったと思うわ」
「マジで!?
それ、ウチもメッチャ嬉しいわぁ」
「けど、その後はボロボロやったけどな」
「そんなこと、ないと思うよ。
久しぶりの試合やってんし、誰でもミスはするもんやし」
「それは、そうやけど、あんだけディフェンスがアカンかったんのは、ミスとかじゃなくて、俺の実力不足なわけやし」
話しているうちに、学はまた試合直後のテンションに戻りつつあった。
頭を垂れ、歩む速度も遅くなる。
それを見て、愛美は学のことを愛おしく思う。
これは、母性に似た感情なのかもしれないと自分で思う。
自分より遥かに大きな身体の男が、小さくなっていく姿が、なんとも言えず可愛く感じた。
中学の時、コートの中を縦横無尽に、そして自信満々なプレーでチームを引っ張っている姿に惹かれた。
その時のイメージとは、正反対の学が、今、自分のすぐ横にいる。
バスケ部に入ってからの学は、少し魅力なく感じたこともあったが、今はやっぱり、学のことが好きなんだと思う。
「この前言ってた賭けの話やねんけど…」
愛美が、切り出した。
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