温度差

12/14
前へ
/142ページ
次へ
 愛美の身体の柔らかさが心地良い。    その感覚に学の心は癒されていた。    と、突然、愛美の口から生温かいものが学の唇を割って浸入して来た。    学の口の中でそれが蠢く。    その絡み合う舌の感覚に、さらに学は陶酔していく。    愛美の舌が戻った時、今度は学がおそるおそる、舌を愛美に伸ばす。    その舌に愛美が吸い付くと、今までに味わったことのない感覚に、また学の腕の力が入る。    愛美から口から熱い息が漏れる。   「ごめん。痛かった?」    一旦、離れて学が訊いた。   「ううん。大丈夫」    笑顔で愛美が答えた。    その時、学の視界に人陰が飛び込んできた。      恵実だった。      反射的に学は、愛美から離れる。    学の視線の先に、愛美も視線を送る。    ふたりの視線を受けて、恵実は走り出した。    それを学が追おうとした時、愛美が叫んだ。   「追わないで!!」    学の足が一瞬にして止まっていた。    すぐに、恵実は角を曲がり姿が見えなくなった。    立ち尽くす学に、愛美が問いかける。   「あの娘が、学くんが好きやった娘?」    学は、黙って頷いた。    ふたりの間に、また沈黙が訪れる。      今度も沈黙を破ったのは、愛美だった。   「今でも好き?」  愛美は、学の顔を見ることが出来ない。  そして、本当は学の答えを聞きたくなかった。    おそらくは、愛美にとって辛い言葉だと予想出来たから。    学は、自分の気持ちを確かめるように胸に手を当てた。     「わからない…」    学は、そうとしか答えれなかった。    今、学の中に一番大きな存在は、間違いなく愛美だった。    バスケ部に入部してから、一番多く同じ時を過ごし、いろいろ話をしてきた。    それは、間違いないと思う。    しかし、中学で恵実への思いに気付いてから、恵実本人に彼氏がいると言われたあの日まで、学にあった恵実への感情を《愛》と呼ぶのなら、今の愛美に感じてる感情とは違うと思う。    それに、愛美と抱き合い、キスしているところを恵実に見られたことによる、この動揺が何なのかと自問すれば、恵実に対する後ろめたさに違いない。    そうなると……。    答えはやはり『わからない』でしかなかった。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1180人が本棚に入れています
本棚に追加