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「……やっばいやばい。もうこんな時間か……」
現在の時間は午後の七時。満月が夜空から、人工的な光が溢れる街を見下ろしていた。そんな街中を、一人の少年が慌てた様子で駆けていく。
少年の名前は三途河渡(ミトガワ ワタル)。私立神流崎(カンナザキ)高校に通う高校二年生だ。
長くも短くもない、少し癖っ気のある黒髪に、まだ幼さが残る穏やかな黒の瞳。神流崎高校の制服である、緑のブレザーを着て、赤いネクタイをしていた。右肩から、黒いリュックを下げている。
こんな時間に何故渡は外にいるかというと、委員会の仕事があったからだ。渡は二年生になって、周りから無理矢理に学級委員長にさせられた。
させられた理由は簡単。その日最後の授業に決めることになり、あまり長引くと帰る時間が遅くなるからだ。その時の渡は、さながら魔王に捧げられる生け贄のようだった。
決して渡は意思が弱いわけではない。ちゃんと反論をする。ただ周りの押し切る強さがハンパないのだ。今までも嫌なことにははっきりとそう言ってきたが、拒絶できたためしがない。
今度からはもう少し強くいこうと心に決めていたが、それが叶った日はまだ来ていなかった。
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