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「……忙しいけど、やりがいがあって楽しいからいいか」
渡が家へと向かって走りながら、そう呟いた。
多分、押し付けられても結局は投げ出さずにやりきり、しかも前向きでいる、この姿勢だから、押し付けられるのだろう。渡はそのことに気付いていない。
「ああ~、それよりも腹減った~。疲れたし、今冷蔵庫にある材料で済ませるかな~……」
走っていると、腹の虫が鳴り出し、冷蔵庫に今日の夕飯、明日の朝食と昼食の分ギリギリの材料が入っていたことを思い出していた。
家事は全て渡がやっている。両親は不在。死んだとかそういうのではなく、息子をほったらかしにして、両親は世界を旅しているのだ。
こういう時、兄弟とかいればいいのにと、ふと渡は思う。だが、あいにく渡は一人っ子。実際に兄弟がいる人間にしてみれば、たまに邪魔だと思うらしいが。
「普通に帰ってたんじゃ時間かかりそうだしな……うし、近道するか」
学校を出てからここまでの時間を、携帯の時計を見て計算。そして、この時間帯は交通量が大きく変わり、信号で一度止まってしまうと、かなりの時間待たされるため、急いで帰るために近道しようと、路地裏に入る。
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