第七章 ユオンの剣

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 これ以上はさすがにまずいか。  馬の速くない足で、遠くまで行けるだけの時間が必要だ。 「話はそこまでだ。いいな、ソフィとリアーネを連れてできる限りここから離れていろ。それこそ大声で叫んでも何も聞こえないくらいまでな」  ソフィは不安げなリアーネを懸命に元気づけている。  リアーネは気丈な娘だが、それでもまだ家族や親しい者たちが殺されるという凄惨な記憶から完全に立ち直ったわけではないのだ。  そうでなくともこれから繰り広げられる光景は、知らない方がいい。  俺の慮るところに思い当たったナユは、引き締まった表情になって頷いて、ソフィとリアーネの下へと駆け寄って行った。  荷馬車はソフィが操れるし、後のことはナユに任せておけばいい。  それくらいには、頼りになる。 「ナユにはああ言いましたが、俺一人でもすぐに片が付くと思います。レイラさんは本当に不測の事態があった時に動いてもらえればそれで十分ですよ」 「失念していました。ユオンさまは当時破竹の勢いを見せていた大国ガライアの軍勢を、その剣ひとつで退却せしめた御方。追っ手程度は物の数にも入らないのでしょうね。分かりました。この場はユオンさまにお任せいたしますわ。私は一剣士として、ユオンさまの剣技をこの目で見させていただきます」 「ガライアを退けられたのは俺だけの力ではなく兵たちの奮闘があればこそでしたが、この場は確かに任されました」  それでレイラさんとの話を打ち切った俺は、昂る心を落ち着かせようと瞼を閉じてたたずむ。
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