第二章 港町スリーネ

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 俺は、もう逃げない。  少なくともこいつがそばに在る限りは、俺の背中をどこまでも追いかけようとする奴がいると分かるから。  俺はこいつの――ナユの師匠だからな。 「今日もいい天気です。潮風が気持ちいいですよ」  窓から覗く景色は、陽光で煌めく水平線が広がっていた。  昨日は気にする余裕もなくて意識に入らなかったが、この部屋からは海が見えるらしい。  この海の先には別の大陸が広がっていて、そこには俺が捨てた祖国もある。  兄上は黙って消えた俺に腹を立てているだろうか。  それとも呆れ果てて、俺の存在など忘れてくれているだろうか。  できれば、案じてはいないで欲しい。 「体調は?」 「正直に言えば怒らないでくれますか?」 「答えによる」 「じゃあ元気です」  どうやら酒は抜け切れていないようだが、軽口を叩く余裕はあるらしい。  ならば問題はないか。  俺は微妙に気怠そうなナユを伴って、ソフィたちの様子を見に行くことにした。 「おはようございます、ユオンお兄さま、ナユさん」  ソフィは俺が最後に見たのと同じ姿勢でいた。  まさか寝ていないのではと不安になったが、顔色はそこまで悪くはない。  しっかり寝たとも思えないが、仮眠くらいは取れたのだろう。
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