第二章 港町スリーネ

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「はい、話には聞いておりましたが、お父さま――陛下が城から出るのを許してはくれなくて。一国の姫がこうも世間知らずでは、よい物笑いの種となってしまいますね」 「ソフィのせいではないよ。お父上には大事にされていたのだな」  頷くソフィは、きっとオルカ王にとても愛されていたのだと思う。  城から出ることを許されないなど人によっては過保護にも聞こえるだろうが、王族や貴族の令嬢の多くはそういった暮らしを強いられ、国や家の意向でそのまま見知らぬ誰かに嫁いで一生を終える。  そこに本人の意思が介在する余地はなく、むしろ邪魔にしかならない意思を与えぬように外界から隔離するのだ。  人を道具のように見なすなど、悪習であるとは思う。  けど祖国の平穏のためにデュナセリアに遣わされた俺の母がそうであったように、貴き家に生まれた娘が政略の大事な駒であるのは歴然たる事実であり、そのときまで良くない虫がつかぬよう取り図るには隔離するのが最も確実な手法なのだろう。  このような事態にならなければ、いずれはソフィも同じ道を辿っていたのかもしれない。  だが、送り出されるのが単なる道具としてか愛する娘の幸せを願ってかでは、強いられる側の一生の意味合いも大きく変わると俺は思うのだ。
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