第二章 港町スリーネ

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 ソフィが父親を最後まで好きでいられたのは、政略の道具としてではなく、娘として愛されていたからだと信じたい。  不条理に支配されたこの世の中だけれども、それくらいの救いを求めることは許されるはずだ。 「さて、あまり長居しても仕方ない。さっさと用事を済ませて帰るとしよう」 「ナユさんを待たせるのは良くないですしね」  思わず苦い顔をしたら、ソフィに笑われた。  再会してからは初めてと言っていい、愉しげな笑顔だ。  こんな表情を見られるのなら、道化となるのも悪くないと思える。  しかし、問題はナユだ。  一緒に行きたがっていたところを強引に残してきたからな。  レイラさんを一人にさせられないのはナユもよく分かっているだろうから、多少の不満は零しても後には引かないと思うが、土産の一つくらいは買っておいた方がいいかもしれない。 「ところでユオンお兄さま、その、実はお兄さまに再びお会いすることが叶ってからずっとお訊ねしたいことがあったのですが、よろしいでしょうか?」  そうかしこまられるとこちらも身構えてしまうが、ソフィと会うのは八年ぶりなのだ。  お互い訊きたいことのひとつくらいはあろう。
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