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この学校の頂上に植えられたさくらの木。今はもう枯れ果ててしまったが、このさくらの木にも人生があった。
この学校を見守り続けた。長い歴史のある学校を、1番知ってるのは、このさくらの木である。
ふいに、なにかがこの学校を全校生徒に語り出し始めた。誰かが声を出して語っているというわけではなく、それなのに全校生徒に聞こえていた。
語られている内容はこの学校の創立期から始まり、今に至るまでの経歴であった。
まるでその学校の人生を語っているかのように―
生徒は学校ではない。それなのに何故か、まるで自分の人生を振り返るような感情を抱かせる語りで、何故か生徒達は泣いていた。
何者かの語りが終わった。生徒達はみんな、廃校になるこの学校を無くしたくない、と思った。そして初めて、生徒達がこの学校を心から愛した。
すると突然、学校がまばゆい光に包まれた。生徒は学校から飛び出し、学校の方向に顔を向けた。そこには―
そこには枯れたはずのさくらの木が満開に咲き誇っていた。
生徒達は、涙が止まらなかった。
そして、先程の語りの声が、聞こえてきた。
その語りは最後にこう言った。
『この校舎は廃校になる。つまりみんなの愛した学校はなくなる。しかし、ここで過ごしてきた生活は、ここで残してきた思い出は、絶対に無くなる事はない。そして、この学校もみんなの事は忘れない。
そうだ、約束しよう。十年後、この場所に来てくれ。君達にとっておきのプレゼントをしよう。必ず、プレゼントする。約束だ。そのかわり、約束してくれ。この学校を、校舎を、思い出を、忘れないでくれ。約束だ。』
強風が吹き、さくらが舞い散る。それはとても哀しく、しかし穏やかな、そして懐かしい風と共に、さくらが散った。
生徒達は、悲しくならなかった。なるはずがなかった。何故なら、十年後に待ってるからだ。素敵なプレゼントが、待ってるからだ―
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