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夜の街並みは、リアリティーを覆い隠す。
ひとつひとつ灯る灯りの下に、それぞれの人間模様があることなど及びもつかない。
それが「夜景」と呼ばれるものになるなら、尚更である。
海辺から市内を一望する小洒落たホテルのレストラン。
「夜景」を眺めながら、小さく纏められたディナーに舌鼓を打つ。
雛子は、同僚でもあり恋人でもある葉山仁と談笑していた。
「綺麗な夜景ね。」
「ああ、綺麗だね。」
「今日はどうする?僕は、明日は仕事休みだし、このまま泊まれるけど。」
「……ごめんね。私は無理だわ。明日は例のイベントだし。朝早いから。」
「仕事は相変わらず大変なの?」
「忙しいけど、大変なんかじゃないわ。やり甲斐あるし。それに、早く正社員になりたいし。頑張らなくっちゃね。」
「そうか。それは良いことだよね。今日は残念だけど、家まで送るよ。」
「ありがとう。」
在り来たりな会話を終わらせると、雛子は再び夜景に見入った。
(夜景の灯りって、どうして点滅して見えるのかな?)
ふと頭に浮かんだどうでも良い考えも、雛子には気楽な楽しみに思えた。
仕事に、仁との交際に、同僚達との友達付き合いにと、確かに雛子の日常は「気儘」に通りすぎていた。
そして、それが幸せだと感じていた。
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