0.Summer of moment

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   視界に飛び込む橙色。空には夏の夕陽が輝いて、それを乱反射させた海は眩しく煌めいている。  水平線に浮かぶ巨大な入道雲がひどく儚くて、君と過ごす時間が壊れてしまいそうで。  ふたりの指が僅かに触れる。  君は何も言わず、その白く細い指で俺の手をぎゅっと握った。まるで、離さないと言うように。  それに呼応して俺は指を絡ませた。体温が重なる。お互いが決して離れぬように、と最大限の願いを籠めて。  それは細やかな抵抗。ちっぽけな俺に出来る、理不尽で意地悪な神様に抗う唯一の手段。  俺たちはここにいる、と。  もし時間を止める方法があるなら。左回りの時計があるのなら。  願わくは。叶うのなら。君と離れることなく、永遠に一緒に――そんなことなどあり得るはずないとわかっているのに。  俺は。君は。必死で願った。  刹那。静寂。停止。  虫たちのアンサンブルが止み、波の不規則なリズムだけが、俺たちふたりの世界を支配した。  俺たちは何一つ言葉を発することもなく、ただ海を眺め続ける。本当にふたりの時が止まってしまったかように。  他に何も要らない。  俺には彼女だけがいればいい。  頬を涙が伝った。 「  」  俺は君の名を呼ぶ。  溢れる言葉を押さえ込んで。  俺たちの未来は決して交じらぬことくらい理解しているから。    「  」  君が俺を名を呼ぶ。 「     」  気付けば俺は彼女を抱き締めていた。  華奢で、今にも空気に溶けて消えてしまいそうな、儚い彼女。  腕の中でその身体は小刻みに震えていて、その浅い吐息が首筋にかかる度に、俺は強く彼女を抱き締める。壊れてしまわぬように。 「     」  俺たちの想いは互いの心に共鳴して、だがふたりの願いは――神様へと届くことなどない。 「    」  言葉と同時、君は俺の腕の中から擦り抜けていく。  俺は再び君を抱き締めることも出来ず、去って行く彼女の背をただ――。 「    」  それは、約束の言葉。  それは、別れの言葉。  彼女と送った毎日は、まるで刹那の夢のように儚く、幸せで。  もう一度、愛し君に巡り逢えるのならば一一。  そんな願い、あんな神様には決して届きはしないだろうけど。
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