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『カイザース、三巡目に入ってようやく!この試合初めてノーアウトからランナーを出した!ボールを処理した伊坂、ここまで投げた疲れが見えたか……!?』
(黙ってろい、出来りゃ九回までは!)
ファイターの指摘通り、伊坂のスタミナはこの時点でかなり消耗していた。調整もなしに急遽投げたのだ、無理もない。
九回まで完投してやろうと目論んでいた彼だが、まずはここの大一番を超える必要がある。無死一塁でここからの打順はクリーンナップ、最初に迎えるは友沢だ。
「伊坂。アンタの独壇場もここでしまいだ」
絶大な自信を醸し左打席に入る。既に二打席対峙し、それ以外も片時たりとも伊坂の投球から目を離さなかった。彼ほどの打者ともなれば、対応力も分析力も並の選手の比ではない。
そう、既に友沢は今日の伊坂の球質解析を彼なりに完了していた。そのうえで彼はこの打席、五分以上の勝算を以て臨んできている。否、スタミナを消耗し失速気味の今の伊坂ならば、ほぼ間違いなく打つだろう。それだけの絶対力、オーラを放ち悠然とバットを構えた。
『ここから友沢、ドリトンとクリーンナップが続く!無死一塁、疲労の見え始めた伊坂、凌げるのか!?第一球、振り被った、投げた!』
友沢対伊坂の一球目。直球が来る。遅い。トップスピードに比べればずっと遅い球だ、一五〇キロあるかも怪しい。
――打つか?友沢は――動かない。躊躇した、スイングをしなかった。投球はインハイ、友沢の胸元を擦過しミットへ吸い込まれる。判定はボール。
ふん、と口端を曲げ友沢は有利を確信する。見立て通りスタミナ切れで球威は落ちてきており、ならば尚のこと打つのは容易い。儲けもの、やはりここで打つ。打ち砕ける、勝てる――!
ところが二球目。
「んぉらっ!!」
投げ込まれた球に友沢は驚かされる。球種は予め読んでいた直球通り。だったが、その球のノビが予想以上。
速い。そう思った時には球はミットに飛び込んでいた。
――ズッパン!と強烈な撥音を響かせ二球目は見送りストライク。球速カウンターに目をやると「一五八」。伊坂の出し得るほぼ最高速ではないか。
『おおー、二球目凄い直球ですよォ!?伊坂、まさしく身を削っての気魄の投球!友沢も動けず!』
なんて奴だ。友沢は舌を巻く。
スタミナが減っている今、ピークは過ぎたと思っていたが二球目はほぼ全速。まだそんな球を投げられる余力を残しているというのか。
「ぜえ、ぜえ。勝った気になんのは早いぜ若造」
マウンドの伊坂はやはり肩で息をする程、疲労しているのは違いない。それでも友沢に対し全力で来るというのは、ここで打たすわけにはいかない、投手の意地がそうさせるのだろう。
こうなれば話は別。落ち目の直球とシュート気味の直球だけかと思われたが、この土壇場でも最高速を伊坂は投げてこれる。つまりはタイミングを絞り打つのはグッと難しくなるのだ。
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