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「あの速球は本来俺でも手を焼く代物。昨シーズンは伊坂の予告先発が出れば、直前に一六〇キロのマシン打撃でイメトレも要したくらいだ。ウチの打線があれに慣れるには、ざっと見積もって三巡目からだな……」
「Ha!蓋を開けてみれば簡単な話ダ。要は早く伊坂の球に慣れて打っちまえばいいんダ」
「あんたは単純で羨ましいよ」
「なんだトー!」
友沢とドリトンが罵り合ううちに、二番打者も三振で倒れる。
ツーアウトでランナー無し。次の打順は三番となり、話を切り上げた友沢がバットを手に取りグラウンドに向かった。
(問題は裏で糸を引く奴がいるということ。あの丸岡監督が居ないバルカンズに、こんな奇をてらう戦法が思い付くものだろうか?いやない。伊坂の奇襲は、奴自身が考案したものじゃない筈。奴以外にブレーンがいる……)
打席に立ちながらも友沢は尚も思慮深くバルカンズの動きを探る。
懸念はまだあった。伊坂が事実上先発として投げていると言う事は、その間の指揮は誰が果たして執っているのか?まさか自由放任で選手全員をプレイさせているわけではあるまい、今日のバルカンズには先の二戦のような優柔さが無い、虎視眈々と反旗を狙わんとする、したたかさすら感じる。そこには何らかの統率力が働いているに違いないのだ。
(誰が操っている?誰が……)
『ストライク!』
考えているうちに投球が進み、カウントはワンボール・ツーストライク。しかしここで友沢は気付く。
(これは――何だ?)
ここまで投げ込まれた三球。そのいずれもが似通っている。先の第一打席で対決した際の配球にだ。
しかし厳密に云えばそれは同じではない。ほんの微細なコースと球威のズレがある。その正体は四球目で分かった。
『友沢との二度目の対決も伊坂、真っ向勝負で向かっていく!第四球目投げた!』
インロー。これも先程の対決時と同じコースのストレート。
――否、違う。ストレートではないッ!
見逃せば三振。友沢は振っていく。しかしスイングする前からしてやられたというのが分かった。僅かな『変化』をした球は、友沢のバットの芯を外れ、下側に掠って鈍い音を鳴らすのみ。ホーム前で大きくバウンドした打球は力もなくただ高く跳ね、二塁手のグラブに収まると即座に一塁へトスされた。
走塁が間に合うはずもない。塁審にアウトを宣告され、二打席目も友沢は敢え無く打ち取られた。そしてこれでスリーアウトチェンジとなる。
(今のは直球じゃなかった。それに見せかけほんの僅かな横変化を含ませた、高速シュート……!)
分かったのは、二巡目から伊坂の球質が微かに変化したという事。一巡目でカイザースの打者全員が一五〇キロ後半の直球を見せつけられたところへ、並の打者なら気付けないレベルでの些細な変容。それは、直球のシュート回転だった。
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