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「彼女は背伸びしすぎたんだよ。顔だって大人になればきっと美人になったと思うよ」
「どういう意味?」
「自分の価値を分からずにドブに捨てたってこと。少なくともこの学校に彼女の味方はもういないと思う」
中学生の軽蔑の仕方は恐ろしいものがある。
女子からは蔭口をたたかれ、男子からは大声で卑猥な言葉を言われるだろう。
桜木さんのことを好きだった男子は夜な夜な泣くだろう。
「流布したことが公になって良かったじゃん」
郁也がそう言って初めて僕に笑顔を見せた。
それが何を思っての笑顔だったのか、僕には到底理解出来ないだろうと瞬時に感じ取る。
「いやごめん、良かったじゃんなんて思える要素がひとつも探せないんだけど。住所まで流布してるんだよ? お先真っ暗だと思うけど」
「そうかな? 一番最悪のパターンって小規模な人数にだけにその情報が行き渡ることだと思うけど」
「小規模な人数? それだとむしろ秘密を知ってる人が少ない訳だから心の傷も小さく済むし、知ってる人の把握もしやすい。良いこと尽くしとは言わないけどまだマシじゃないかな」
「世界に桜木の人格しか存在しないならね」
「人格? それって…」
「秘密を知ってる人はその秘密をどう扱うのかなって話だよ」
嫌な唾が口中に広がる。
そんな観点からの見方は考えてもみなかった。
つまりこういうことだ…
『脅しちまおう』
「ね? いっそのことバレて良かったでしょ」
「…もし郁也だけが桜木さんの秘密を握っていたらどうしてた?」
聞くのも怖かったけど、考えるより先に口が動いた。
「完全犯罪か、一番楽な自殺の方法を考えてあげる」
郁也は少し考える素振りをしてそう言った。
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