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俺は言われるがまま片瀬を背負う。
片瀬の足に掛けてあった毛布のようなもので背負いながらでも両手が使えるように片瀬と自分をきつく縛る。
「なんか赤ちゃんみたいで恥ずかしいんだけど」
もう背負ってしまっているので片瀬の顔は確認できないが、赤くなっているのだろうと勝手に想像したりしてみた。
「仕方がないだろ。両手が使えなきゃ校門をよじ登るなんて出来ないって」
片瀬はうめき声のようなものを発した後に黙り込んでしまった。
しばらくの沈黙の後に俺は口を開く。
「それで、忘れ物ってなんなの?」
もうすぐで片瀬の教室って所での質問だった。
さっき問いかけた時は、忘れ物としか聞いていなかったからだ。
「忘れ物っていうかね、使うとしたら学校しかないって思ってたから置いておいただけなんだ」
相変わらず片瀬の顔は確認できないが、明らかにさっきまでと声のトーンが違うことで、何か変化があったのだと気付く。
そしてその引き金を引いたのが俺だということも同時に察した。
けど、その変化が悪い方への変化なのか、それとも逆なのかは検討もつかない。
こっちがそのことに気付いたと、勘付かれたくなくて適当な返事を返す。
「自分が死んだらとか、誰でも一度くらい考えたことあるでしょ? 大げさかもしれないけど、恐ろしいような、好奇心のような、なんとも言えない感情とかが一気に押し寄せてきたでしょ」
片瀬の言いたいことは、良く理解出来なかったが、確かに自分の死については考えたことはあったので相槌を打つ。
「私は答えを見つけたの。その恐怖に勝つ為にはどうすればいいってこと、その好奇心を打ち消すのはどうすればいいってこと」
片瀬のそんな自論を聞かされても何とも言えない。
その言葉の奥にあるメッセージを読み解くことが大事なのかもしれないな。
けど、そんな大それたこと出来る程、人生経験なんてないし、片瀬のことだってまだこれっぽっちも分かっちゃいない。
「その答えが忘れ物と何か関係があるんだな?」
「そう、さすが本を読んでるだけあって賢いね」
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