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結果から言ってしまえば雅也を見つけることは出来なかった。
出火元が職員室辺りであることは分かったが、予想以上に火の回りが早く、雅也捜索からほんの10数分で校舎を離れた。
本当に雅也がやったのか、本当にその場にいたのか。
そんなことを考えながら呆然と燃え盛る校舎を片瀬と2人で眺めていた。
「燃えてるね」
「燃えてるな」
無意識に返した言葉がそれだった。
「私の秘密セット置いておくんじゃなかったな」
片瀬が溜め息をつきながらそんなことを言う。
校舎が燃えていることにさほど関心がないようだ。
「あんなもん一緒に燃えても問題ない。どうせあってもさせないから」
言った後で自分で驚いた。
俺は他人の死に興味がなかったんじゃないのか?
所詮口だけで本当は怖いのかもしれない。
今だって雅也が死んだ可能性を考えると体が微かに震える。
「あんなもん呼ばわりは、ちょっと酷い。でも後半は悪くない」
片瀬がそう言ってこちらに微笑む。
もしかしたら俺はこの微笑を失うのが怖いのかもしれない。
考えたくもないけど。
「なぁ、片瀬」
「ん、なぁに」
「真奈美って呼んでもいいか?」
大事な人の定義とか、そんなもんこれっぽっちも分かりゃしないけど、俺の中で片瀬は死んでほしくないリストに挙がってるのかもしれない。
「焔君って生意気だよね。後輩の癖に私に敬語使わないし、その上、下の名前で呼び捨てしようとしてる」
少し考える。
思ってみれば先輩に敬語なんて中学校時代からしていない。
部活動もやっていなかったし、係わり合いのある先輩なんて一人もいなかったから。
「…駄目か?」
今更敬語に直せなんて言われても歯がゆいだけのような気もする。
「駄目じゃないよ。駄目じゃないけど、なんかカチンときた」
その割りにまったく怒っている表情ではない。
「別に馬鹿にしてるとか、舐めてるとか、そんなんじゃないよ。ただ先輩との接し方ってのがどうも分からなくてさ」
「孝志のばーか」
そう言った時の片瀬の表情は初めて見るものだった。
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