セイジとユカ

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「お、桜木がコケた。あの男子助かったみたいだね」 窓の外を眺める郁也がそう言った。 思わず僕も外を見る。 そこには顔に怪我をしたのだろうか、桜木さんが頬を押さえ膝を付いていた。 正面を向いているわけじゃないので桜木さんの表情までは分からない。 彼女はどんな気持ちであそこにいるのだろう。 「郁也なら桜木さんを救える?」 僕は窓の外を眺めたままそう訊ねた。 「救うって概念が分からないな。質問を返すようで悪いけど、お前にとっての救うってなんなの?」 郁也の質問返しに言葉が詰まる。 言われて気付いたが、確かに人それぞれ考える彼女に対しての救いは何通りもあるのだ。 そして僕は、まだ彼女に対する救いが思いついていない。 慰める? 守る? 傍にいる? そのどれもが正解のように思えもするけど、不正解のような気もする。 「ごめん。分からないや」 少し考えた後で考えもなしに質問してしまったことを郁也に謝った。 「いいよ。そこでぱっと思い浮かぶような救いなんてこれっぽっちも信用ならないだろうし」 郁也の言う言葉は、なぜかつねに先を見越していた。 まるで僕が次に何を言うのか分かっているみたいに。 「誠二は桜木が好きなの?」 突然郁也がそんなことを言い出した。 「…なんで?」 僕は桜木さんのことを友達以下と思っている。 会話したことすらないんだから当然だ。 自分の気持ちに鈍感なわけじゃないからはっきりと分かる。 「違った? 俺さ、勘がいいほうなんだけどこっち方面だといつも外すんだよね。恋愛系の勘は全然駄目みたいだ」 郁也はそう言って微笑む。 僕に初めて見せた郁也の子供らしい部分だった。
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