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聞いてみるとなんてことなかった。
よく見ると枠の所にストッパーが付けてあり、それを押すだけで簡単に開いた。
そして彼の存在も予想していたそれとは違い、話してみるととても温厚な生徒だった。
少し変わっていることに間違いはないみたいだったけど。
「あ、チャック開いたままだった」
一見クールな奴かと思ったらとてつもなく抜けた奴だということ。
「よくここにいるの?」
「ほぼ毎日」
「そうなの? 僕も結構前からちょくちょく来てるけど見たことなかったよ」
「1週間前に初めて来たから」
そしてどこか憎めない奴だということ。
「名前聞いてもいいかな?」
「大槻郁也」
「郁也か。変わった名前だね」
「ほっとけ、お前は?」
「南誠二」
「ありきたりな名前だね」
「ほっといて」
郁也は喋っている間、一度も笑うことはなかったが、僕は楽しかった。
相手も同年代の14歳で初めて落ち着いて喋れる友達が出来た気がした。
中学2年生といったら皆考えていることは数パターンしかない。
男子は性への目覚め、女子は背伸びして色気づく。
歳相応だと分かっていても馴染めなかった。
郁也がそうじゃないとは言い切れないが、少なくとも自分のことばかり主張したがる奴とは違う。
言い方が悪いかもしれないけど空気みたいな人だった。
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