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きっとそう。
そうにちがいない。
私を締め付けるこの縄も、私を睨む数多の瞳も、私を追い込む血の臭いも。
全てが悪い夢、そう、夢なんだ。
空が白みがかり、雷音が宮を貫く。
訝しい面をした男が前に立ち、私を見下している。
その手には刀が握られ、今にも私の血肉を求めんと憤り、白光をその目に見せ付ける。
ただ、恐い。
「――話が見えんな。おぬしは何者だ?」
ああ、私は死ぬのだろうか。
瑣末な日々なれど、幸せな日々をおくっていた私が、こんな世の終わりのような場所で。
こんな優しさもないような場所で。
そんなの、認めたくない。
「答えよ、雲より出でし女雷よ」
私は、ただ、首を振るしかなかった。
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