プロローグ

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近藤と駅で別れ、これから一時間弱の電車の長旅。 車内は、終電も近いせいか、酔っ払い客でごった返していた。 気分が悪い。 酔いは醒めてはいたものの、相当飲んだ後なのと、オッサン連中の加齢臭で、具合が悪くなった。 しばらく耐えた後、だんだんと人が少なくなり、やっと座れるようになった。 窓の外に目をやると、ポツリポツリと人家の灯りが目に入る。と、同時に近藤の顔が目に浮かんだ。 「はぁ…」 いつもより重いため息が、体中からあふれこぼれてくる気がした。 ようやく、自宅の最寄り駅へと着いた。ここから部屋までは五、六分の距離である。駅前商店街を抜け、小道へ入って、少し歩けば着く。重い体を引きずるように、家路につく。 商店街を抜けた。小道に入ってすぐのところに自動販売機があった。 バッグから小銭を取り出し、いつも買っている、ペットボトルのお茶を買う。 「ガタンっ」 お茶を取り出そうとしてしゃがむ。すると、 「にゃあ」 猫の鳴き声がした。キョロキョロとあたりを見回すと、自動販売機の横に、ダンボールに入った、小さな子猫が寂しそうに呼びかけていた。体はプルプルと震え、まだ、足元も覚束ない動きで、箱の中でウロウロしていた。 「猫…嫌いだしな…」 私は猫が嫌いだった。 小学生の頃の学校の帰り道、歩道に横たわる、猫の轢死体を見てから、トラウマになっていた。 「可愛いんだけどな…」 そう思うが、拾ってあげようとは思わなかった。 「ごめんね」 一言、声をかけて、チョンとつつく。子猫はまた、 「にゃあ」 と鳴いた。 立ち去ろうと、腰を浮かせようとしたとき、 「あ、こんばんは…」 誰かが、あいさつをしてきた。 誰!?と思った。この辺には知り合いなんていない。マンションの隣人とも、顔を合わせたこともない。まさか… ストーカー!? そう思うや否や、怖くなり、持っていたバッグを振り向きざま、叩きつけ、部屋へと一直線に向かった。
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