運命

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怖かった… ただ、怖かった。 部屋に入り、慌てて鍵を閉めた。心臓が暴れている。暗闇の中、息を殺そうとするが、自然と息がこぼれる。心臓の脈打つ音が、ハッキリと聞こえる。 しばらくすると、何も聞こえなくなっていた。落ち着きを取り戻し、部屋の明かりをつける。そのままベッドに倒れ込み、さっきのことを思い出した。 「あ、バッグ!?」 投げつけて、そのまま放置して逃げたからだったのを思い出した。 財布や、化粧品。携帯電話まですべて、あのバッグに入っていた。 「はぁ…」 今日一日で何回ため息をついただろう。考えていても仕方ない。思い直し、風呂場へと向かう。 「明日、警察へ行こう…」 そう考えながら、シャワーの蛇口をひねった。 翌日 お金は、いくらかはタンスに入っていたものでなんとかなったが、携帯と、財布に入っていたカード類の一時的な停止の届けを出し、駅前の派出所へと向かった。 会社には、事情を説明し、午後から行くということになった。 前日の、自動販売機の前を通りかかる。相変わらず、猫はいた。 「にゃあ」 昨日と同じ声で鳴いている。 見ているとつらいので、足早に立ち去る。昨日を思い出し、また少し、怖くなった。 朝11時の商店街。人はまばらであった。比較的、田舎町である。人口は少ない。駅前のロータリーの近くにある派出所。悪いことをしたわけでもないのに、足が竦む。が、勇気を振り絞って、中へと入った。 「…で、そこに不審な男が来たというわけですか…」 初老の警察官から事情聴取を受ける。 「はい…」 聞かれたことに答えるとき、私自身、悪いことをしたんじゃないかという、錯覚に陥る。 警察は苦手だった。 若い頃、何回かお世話になったこともある。そのたびに母が迎えに来て、何回もひっぱたかれた。 一通り終わると、帰っていいよと言われた。結局、話だけだった。仕方ないけれど。 実際、なにかされたわけでもなかったし、バッグも盗まれたわけではなく、自分で投げ捨てたようなものだからだった。トボトボと駅の切符売り場へと向かう。今日はいつも以上にやる気が起きなかった。
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